チェコの宝箱

エッセイ

ひなぎく
「ひなぎく」(ヴェラ・ヒティロヴァー監督)
© FILMEXPORT PRAGUE DISTRIBUTION s.r.o./発売:・配給:チェスキー・ケー/ [DVD] 販売:ダゲレオ出版

「チェコの映画って、どんなものがあるの?」

映画好きな友人たちに聞かれて、はたと考えてしまいました。頭の中をよぎったのは、数々のアニメーション、劇場公開された映画やチェコ出身ながらアメリカに渡ったミロス・フォアマン(チェコ語読みはミロシュ・フォルマン)監督の「アマデウス」など。

日本で公開されるチェコ映画の数は決して多くなく、上映されるのは大抵小さな映画館です。誰でも知っているチェコ映画を、とっさに思いつかなかったのには、そんな事情があります。 とはいえ、アニメーションに関しては「チェコアニメ映画祭」などで系統的に作品が紹介され、その質や多様さが知られるところとなりました。

層が厚いチェコのアニメーション作家たち。その中でも、3大巨匠といえば・・・。イジィ・トルンカ、カレル・ゼマン、ヘルミーナ・ティールロヴァーです。特にイジー・トゥルンカの作る人形と、それを動かしてアニメーションにする技術は、後の作家たちに大きな影響を与えました。

カレル・ゼマンは、アニメーションと実写と組み合わせた独特のトリック撮影を行って、「失われた飛行船」(ジュール・ヴェルヌの「十五少年漂流記」が原作)などのファンタジックな作品を次々と生み出し、実験的な試みをした人で知られます。

ティールロヴァーの作品は、女性らしい視点でハンカチや毛糸を主人公にした、愛らしくほのぼのとしたものが多いのが特徴です。

これまで日本で公開されたアニメーション以外のチェコ映画にはどんなものがあるでしょうか。 2002年に公開されたのは「ダーク・ブルー」(ヤン・スヴェラーク監督、2001年・チェコ=英、2001年アカデミー賞外国語映画賞受賞)です。チェコでは、10人に1人が観たという大ヒット作。チェコが、第2次世界大戦と戦後を通じ、いかに歴史に翻弄されたかを英国空軍に入隊したチェコ人パイロットたちの目を通して語られます。。

「この素晴らしき世界」(2000年、ヤン・フジェベイク監督)も、同じく第2次世界大戦下のチェコの小さな町が舞台です。子宝に恵まれない夫婦は、ひょんなことで収容所から逃げてきたユダヤ人青年ダヴィトを家にかくまうことに。家に出入りするナチス信奉者にそれを気づかれ、話しは思わぬ方向へ展開します。敵も味方もなく、戦争の愚かさをユーモアをまじえて描いた作品です。。

チェコスロヴァキア時代、女性監督ヴェラ・ヒティロヴァーの手による映画「ひなぎく」(1966年)も紹介したい映画のひとつです。主人公である、若いふたりの女の子の、はちゃめちゃな振る舞いが、当時の共産党政権を揶揄している視点がチェコならでは。ミニスカートや室内インテリアに注目すれば、ファッションやデザインがいかに時代を反映しているかがわかります。

ビデオやDVDで観ることができる映画を、独断で傾向別にまとめてみました。これを参考にして、時には好みのチェコ映画を観て過ごしてみてはいかがでしょうか。

傾向別おすすめチェコ映画

 戦争による人間の悲喜こもごも―「ダークブルー」「この素晴らしき世界」
 ほのぼのした話―「スィートスィートビレッジ」「コーリャ 愛のプラハ」
 ナンセンス―「カルパテ城の謎」
 幻想的な長編人形アニメ―「真夏の夜の夢」
 少年になって冒険を―「失われた飛行船」
 ポップな60年代の映画―「ひなぎく」
※このエッセイは新潟市民映画館「月刊シネウインド」(2005年8月〜2006年6月)に連載のエッセイ「チェコの宝箱」に加筆したものです。